2023年7月13日にリニューアルオープンをしたここは、大町市上原(わっぱら)にある「劇団四季 浅利慶太記念館」。劇団四季の創立者であり日本を代表する演出家のひとり、浅利慶太の記念館です。
劇団四季創立70周年を記念して大幅に変更された館内では、半世紀を超える劇団四季のあゆみをさまざまな舞台模型、写真、台本、大道具・小道具、衣装や関連資料などによってわかりやすく紹介しています。敷地内には、今も舞台で使われているという劇団四季の大道具や小道具、音響機材などの舞台美術が保管される倉庫が立ち並び、なんともいえない感動が湧き上がってきます。
劇団四季ファンなら必見。ファンでなくても、きっとミュージカルを観に出かけたくなる。そんなワクワクが詰まった記念館をご紹介します。
劇団俳優の音声ガイドと共に、浅利慶太の稽古場へ
扉を開けると目に飛び込んでくるのが、年季が入った「劇団四季」の看板。これは創立10周年を記念して建てられた稽古場にあったもので、およそ55年間、風雨にさらされながら劇団員を見守り続けた看板です。左端のロゴマークは「四季」の名前から「Ⅳ(4)」と、古くから演劇の演奏に使われた楽器、ハープを表したもの。館内は基本的に撮影NGですが、ここは絶好の記念撮影スポットとして多くの来場者に親しまれています。
リニューアル後の変化の一つが、劇団四季俳優による「音声ガイド」の導入です。アナウンスを担当しているのは、荒川務さんと岡村美南さん。QRコードを読み込めば手持ちのスマートフォンで手軽に聴けるのが嬉しいところで、じっくり聴きたい場合はイヤホンを持参するのがいいかもしれません。貸出機の用意もあるので、必要な方は受付に声をかけてみてください。
さあ、いよいよ館内へ。正面で迎えてくれるのは、劇団四季が代々木の稽古場で稽古をしていた時代の浅利さんの写真と、実際に稽古場で使用されていた椅子の展示です。稽古をしている浅利さん。写真ながら、思わず背筋がスッと伸びるような迫力があります。
「なぜ大町市に?」から始まる劇団の歴史
時代ごとの展示を見る前に、まずは浅利さんと大町市との関係を見ていきましょう。戦時中、長野県軽井沢町に疎開をしていたという浅利さんは、中学生のころから長野県の環境に魅力を感じ「将来はここに別荘を持ちたい」という志を持っていました。そこで母方の親戚に紹介されたのが、大町市だったのです。
高速道路もなかった時代、半信半疑で足を運んだ浅利さんが目にしたのは、11月の北アルプスの絶景でした。決め手はそのとき出会った景色と地域の人の温かさ、そしてお茶請けに出された野沢菜漬け。すっかり大町市を好きになった浅利さんは保養所を建てました。その後、長野オリンピックの開催などを経て大町市へのアクセスは格段に良くなり、劇団も大きくなって倉庫が必要になり、この記念館と倉庫たちができたのです。
「大町は四季のベースキャンプだ」と話していた浅利さん。時間に余裕ができた晩年は、自然や食、大好きなお酒など大町市を存分に楽しんだといい、小熊山の山頂で笑う浅利さんの写真も飾られていました。
関係性がわかったところで、劇団四季の70年の歩みを見ていきます。
「四季」の名付け親は、作家・芥川龍之介の長男で俳優の芥川比呂志さん。四季はフランス語では「キャトルセゾン」、「八百屋」という意味を併せ持つ言葉です。「八百屋が季節の食材を提供するように、春夏秋冬、年に4本の演劇を提供したい」という思いが込められているそう。ショーケースのなかには、当時の書き込みが残る原稿や台本、出版していたという広報誌「四季」などが展示されています。
日生劇場ができ、宝塚歌劇団のスターだった越路吹雪さんとの出会いがあり。オペラの公演や子ども向けのミュージカル、ブロードウェイの作品に取り組んできた様子など、次々に広がっていく世界観。演出家としてだけでなく、実業家として活躍していた浅利さんのかっこよさを感じます。
客席からは見えない装置や装飾を間近で体感
記念館の見どころのひとつは、セットや衣装、舞台の模型などを間近で見られること。先にはディズニーのコーナーもあり、ライオンキングの衣装につけられた釘もじっくり観察。舞台と客席という距離では絶対に気付けない発見があるのも、この記念館ならではの楽しさです。
劇団四季の大きな転機となった「キャッツ」は、猫の目線でつくられたサイズのセットが特徴的な作品です。館内には実際のセットが置かれていて、ゴミに見せるために加工された、小道具を見ることができます。仙台公演の「萩の月」や、札幌公演の「テレビ塔のぬいぐるみ」、東京・大井町の公演では「大井町で発行されたSuicaのカード」など、ご当地のゴミも探してみてください。
中央にあるのは、1年ごとに変わる限定の展示コーナー。今季は繊細なレース使いが美しい「オンディーヌ」の衣装や、日本人デザイナーの森英恵さんが手掛けた「鹿鳴館」の衣装、デザイン画などが展示されています。
演出家・浅利慶太に迫るコンテンツも充実
2階に上がると、まず目に飛び込んでくるのが公演に欠かせないポスターたち。何百枚もあるなかから選ばれた48枚が上映年順順に掲示されています。右手側に見える黒い3つの箱は、舞台装置家・金森馨さんが作ったという貴重なオンディーヌの模型。舞台を見たことがある人であれば、その「そのまま具合」にきっと驚くことでしょう。
浅利さんが演出家として総合プロデュースを手掛けた「長野オリンピック」の開閉会式や、ミラノ・スカラ座で公演された「蝶々夫人」。映像コンテンツも織り交ぜながら、より深く浅利さんの考えやバックボーンに迫る展示が多く、胸が熱くなりました。
館内には、劇団四季で公演されている演目のグッズやDVD、ロゴ入りのカバンなどが並ぶショップコーナーもあります。なかでもおすすめは、安曇野市に工房を構える「えぞ彫工芸社」とコラボレーションして生まれた記念館限定のストラップ。長野県のリンゴの木をアップサイクルして生まれた商品で、1点ずつ職人が作っているというぬくもり溢れる一品です。お隣に置かれた「劇団四季の100点カレー」は、劇団四季の稽古施設内の食堂で劇団員たちが食べているカレーのレトルトで密かな人気商品。
訪れた記念や家族、友人へのお土産に、ぜひ覗いてみてください。
INFORMATION
劇団四季 浅利慶太記念館
住所 | 大町市平1955-205 |
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開館時間 | 10:00~17:00(~10月)/ 10:00~16:00(11月) |
休館日 | 月曜日 ※月曜が祝祭日の場合は、翌火曜が休館です ※冬季は休館となります。詳細はHP等でご確認ください |
入館料 | 大人600円/小・中学生300円 「四季の会」会員・10名以上の団体500円 |
HP | https://www.shiki.jp/group/other/siryoukan.html |